研究課題
人間は、発話の言語表現の意味を理解し、さらには、その背後にある話者の意図を理解することができる。その話者の意図の理解は、脳内での処理過程において、言語表現の意味の理解と同様に言語に特化された処理の結果として達成されているのか、それとも、より一般的な推論処理の結果として達成されているのかという疑問は、未だに解明されていない。本研究では、この問題への取り組みの第一歩として、発話の非字義的な理解がなされるときの脳活動を、字義的な理解が達成されるときのそれと比較することで、言語コミュニケーションにおいて達成されている"理解"のどこまでが言語処理固有の結果であるのか、逆に言えば、どこからがより一般的な推論や思考の機能と関わりで達成されているのか、について考察を進めた。最終年度としての本年度は、初年度および第2年度に行った複数の実験研究の成果を総合的に考察した。すなわち、ある発話の意味が字義的にではなく、"アイロニー"として理解される場合の条件について検討した実験の結果、および、fMRI装置を用いて、与えられた発話に対する脳活動反応が、発話が字義的に理解される場合と比べて、アイロニーとして理解される場合に、どのように異なるか(逆に言えばどのように同じであるか)を検討した実験の結果を突き合わせ、それらの結果を包括的に説明できる心的メカニズムについて考究した。その成果としては、発話の非字義的な意味の理解そのものと、その発話がもつ対人コミュニケーション上の意味合いなり効果なりの理解とが、異なる脳内過程の所産である可能性を指摘したことを挙げることができる。
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