本研究課題では、「本物らしさ」または「写実性」の判断の背景にある知覚・認知メカニズムの特性を、実験心理学的手法で検討している。20年度は、ロボットや人形など、人間類似の人工物の外観が持つ写実性を対象とした実験を行ったが、21年度では情景画像が持つ写実性の判断についての検討を中心的に行った。ロボットや人形の場合、観察対象が生身の人間であるか、それとも作り物であるのかを識別するための心的メカニズムが主要な検討対象となるが、情景画像の場合、例えば、画像が風景写真であるのか、それとも風景画(油絵やスケッチなど)であるのかを識別するための心的メカニズムが検討対象となる。21年度は、実験手法の開発を主要な目的としたが、知覚心理学での伝統的実験手法である順応パラダイムが、情景画像の写実性判断を研究する際にも適用可能であることを示唆するデータを得た。例えば、風景画像を持続的に観察した直後には、写実性の度合いが高まって感じられることが分かった(写実性残効)。他にも、変化の見落とし課題や、境界拡張現象(boundary extension)の実験パラダイムを用いた研究手法の開発に着手した。境界拡張現象については、先行研究で報告されている現象の再現性自体が困難であり、本研究課題の文脈における有効性を確認することはできなかった。しかし、変化の見落としパラダイムを用いた実験については、写実性変化の検出に非対称性が存在することを示すデータが得られつつある。また、変化の見落としおよび順応パラダイムの結果を統合的に解釈するための理論構築に着手した。 また、20年度に学術誌に投稿した不気味の谷に関する論文が受理された。
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