研究概要 |
グルタミン酸受容体の一種であるNMDA受容体の拮抗薬(MK-801)を新生仔期に反復投与したラットは、成育後においても様々な行動・認知機能の異常を示す。本研究は、このMK-801投与ラットにっいて、統合失調症患者に顕著な障害が認められる作業記憶やsensorimotor gatingなどの行動・認知機能の特性を調べ、このラットの統合失調症モデルとしての可能性について検証することを目的とする。本年度はまず、MK-801新生仔期反復投与が作業記憶障害を引き起こすかどうか調べるために、MK-801(0.2,0,4mg/kg)を7〜20日齢(14日間、1日2回投与)に反復投与し、その成育後に作業記憶の指標である自発的交替反応を計測した。その結果、MK-801投与がこの反応を有意に障害することが分かった。また、上記の投与期間を3分割し(5日間投与)、MK-801(0.4mg/kg)の投与時期の違いによる作業記憶に対する効果の差異を、自発的交替反応と位置遅延非見本合わせ(DNMTP)反応を指標として調べた。その結果、初期(7〜11日齢)に投与した場合において、自発的交替反応が障害される傾向が認められた。しかしながら、その傾向は14日間投与を行った場合よりも顕著ではなかった。DNMTP反応やsensorimotor gatingの指標であるプレパルス抑制については、いずれの投与時期においても薬物の効果は認められなかった。これらの実験から、新生仔期におけるNMDA受容体の遮断が長期にわたる作業記憶障害をもたらすことが示唆されると同時に、出生から比較的初期におけるNMDA受容体の活性化が認知機能の発達にとって特に重要である可能性が示唆された。一方で、NMDA受容体をある程度長期にわたり遮断することが顕著な認知障害をもたらすために必要であることも分かった。
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