本研究は、Tsukuba高情動系(H系)及び低情動系(L系)ラットを用いて、多動・学習障害のメカニズムを明らかにすることを目的としている。本年度はこれらのラットの種々の学習習得過程の実態を明らかにすることを目的とした。得られた結果をまとめると、まず、T迷路による白黒弁別学習課題において、L系ラットはH系ラットに比べて学習基準(連続3試行正反応)に達するまでの試行数が有意に延長することが明らかとなった。さらに、作業記憶と参照記憶を必要とする8方向放射状迷路課題においても、L系ラットは同様に学習基準(8連続正選択ないしは12選択以内で7連続正選択が3試行連続)達成までの試行数が有意に延長する結果が得られた。これらのことから、L系ラットは弁別能力や空間記憶能力を要する学習に対して明瞭な障害を呈することが判明した。しかし、空間記憶能力に関しては、作業記憶か参照記憶のどちらの記憶障害が主な原因であるかについては明らかではない。そこで、次に、参照記憶のみを必要とするモーリス水迷路学習課題を行ったところ、場所学習時及びプローベテスト時(プラットホームを取り除いた試行)において、L系ラットは、水泳逃避潜時が短く、基礎集団である雑種のWistar系ラットと比較しても有意差は全く認められなかった。従って、8方向放射状迷路課題で観察されたL系ラットの空間学習障害は作業記憶障害が主な原因であることが明らかとなった。一方、水迷路課題において、H系ラットはWistar系やL系ラットと比べて水泳逃避潜時が有意に長く、参照記憶障害を思わせる結果を示した。しかし、H系ラットの結果は、高い情動反応性のため水の嫌悪刺激に対するストレスによる二次的影響の可能性が考えられ、今後、水迷路以外の装置を用いてH系ラットの参照記憶能力を厳密に測定することが必要である。
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