本年度は、Tsukuba低情動系(L系)ラットの一般活動性と日内活動量を詳細に観察し、Tsukuba高情動系(H系)ラット及び雑種のWistar系(W系)ラットの行動量と比較検討することによって、多動性障害の動態を明らかにすることを目的とした。具体的には、まず、一般活動性は、オープンフィールド(80cm×80cm;20cm×20cmの区画)内での5分間の区画通過数や移動距離の他に、立ち上がり回数、洗顔・毛づくろい回数、脱糞・脱尿回数を測定した。その結果、L系ラットの活動量(区画通過数と移動距離)はH系ラットに比べて有意に多く(約5倍以上)、しかも若齢(30日齢)群でその傾向が特に強いことが明らかとなった。次に、今回計上した回転式運動量測定装置(KN-78)を用いて、1日の活動量を2時間毎に測定し、30日間継続して観察した。その結果、H系ラットは、統制群である雑種のW系ラットの活動パターンとほぼ同様であったのに対して、L系ラットは、H系やW系ラットとは明らかに異なる活動パターンを示した。すなわち、L系ラットは実験開始から徐々に活動量が増加し、活動ピークに達するまでに期間が有意に延長し、最終的な総活動量はH系ラットより約4倍、W系ラットより約3倍に達していた。また、暗期での活動ピークが、W系やH系ラットでは、暗期の各時間帯に分布しているのに対して、L系ラットでは暗期直後の2時間(20時~22時)に活動ピークが集中する傾向が認められた。さらに、ほぼ毎日、暗期に移行する2時間前の明期(18時~20時)から活動が増加することがすべてのL系ラットで観察された。これらの結果から、L系ラットの多動性と同時に特異な概日リズムの証拠が得られた。今後は、これらのL系ラットの概日リズムの特異性を明らかにするために、脳内中枢と言われている視交叉上核の構造的変化と同時に、恒暗条件下での光刺激に対する概日リズムの位相反応などを検討する必要がある。
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