本研究は、視覚誘導性自己運動知覚(ベクション)に及ぼす視覚刺激の3次元空間内での配置の効果を分析することにより、環境への行動的適応に必要不可欠な自己身体の空間的定位が、どのような知覚情報処理プロセスにより実現されているのかを実験心理学的手法を用いて解明することを目指すものである。本年度は、研究計画の最終年度として、自己身体運動に関わる心理実験を継続し、得られた結果に基づき、自己身体運動知覚に及ぼす視覚情報の効果を総合的に考察した。本年度得られた主な知見を以下にまとめる。1) 視覚刺激(オプティカルフロー)が鼻側網膜に投影された遠心運動成分を持つが場合に、ベクションがより強くなる。この結果は、自己運動知覚に皮質下経路に媒介された視覚情報処理が関与していることを示唆する。2) 刺激属性(輝度および色度)の斉一な変動が、視覚刺激による自己運動知覚誘導を強力に抑制する。このことは、単に視覚刺激の空間配置(空間特性)のみならず、その画像特性もが自己運動知覚に大きな影響を及ぼしうることを示している。3) ベクションにおけるジター優位性(単純運動ではなく、複雑な加速度を有する視覚刺激がより強いベクションを引き起こす)に及ぼす網膜離心度の効果を検討し、ジター優位性がジター付加面積に依存して強化されること、視野中心部の効果が高いことなどを確認した。この結果により、ジター運動の効果は、周辺視野優位であると考えられてきたベクションにおける刺激呈示領域依存性とは異なる傾向を示すことが理解できた。
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