研究概要 |
3実験を行った.実験1では,頭を特定の方向に傾けておいて,視覚的に垂直と感じられる線分の方向を決定するとともに,頭の傾きの主観的大きさを求め,それによって視覚的垂直の方向が,頭の傾きの斜酌によって説明されるのかどうかを考察した.被験者52人.実験の結果,ミュラー効果が認められたが,この効果を頭の傾きによって説明することはできなかった.なぜなら,頭の傾きの知覚誤差は,ミュラー効果よりもはるかに大きかったからである.また,ミュラー効果と頭の傾きの知覚誤差の相関も無相関であった.この結果は頭部斟酌説を否定するものであった 実験2では,視覚的垂直に及ぼす刺激線分の長さとその提示時間の効果を検証した.線分の長さを2水準,提示時間を2水準とし,被験者には20名を用いた.その結果,提示時間が短く頭部が右方向に傾斜したときに,ミュラー効果が著しく大きくなった.また短い線分の視覚的垂直は,長い線分のそれよりも左方向に傾斜する傾向があった.これは,感覚-緊張場の理論の予想と一致していた(この理論では,弱い刺激ほどミュラー効果が大きく現れ,右よりも左方向に大きく現れるとする) 実験3では,視覚的垂直に及ぼす探索活動の効果を検証した.これを調べるために,視覚的垂直を実験者調整法と被験者調整法によってそれぞれ決定した.その結果,この2方法から得られた視覚的垂直の間には有意な差が得られなかった.これは,探索活動の有無がミュラー効果に影響しないことを意味する 3実験によって得られた結果を説明するために既存の3理論の予想と比較したところ,斟酌説や探索説ではじゅうぶんでなく,感覚-緊張場の理論と一致することが判明した
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