研究概要 |
本提案では「理解の認知神経動力学と特殊教育への展開」として,m系列変調法を試験的用途で実際に使えるようにするために必要な技術開発研究を行っている.平成20年度の主要な成果は以下の通り:(1)相関関数に2次ボルテラ核でデコンボリューションを施し,複数の無音区間が連続する場合に前の無音区間が後の無音区間におよぼす非線形の効果の検出と解析を試みた.その結果左側電極(F3,FC3,C3)から記録された応答のうち,連続する2つの無音区間の間隔が50ミリ秒以下,潜時400〜600ミリ秒後の成分において,被験者間で一貫した順逆再生音声での違いすなわち談話理解への関与が示唆された.この成分に焦点を絞ることで個人別解析実現の可能性がある.(2)抽出独立成分関数の周波数特性からのフィルタの構成適用を試み,フィルタを施した脳波の相対的なコヒーレンスの強さを比較した.m系列変調談話の聴取では,理解可能な日本語の順逆で比較した場合,高域γ帯(70-100Hz)においてT7(左側頭部)およびF8(右前頭部)と他の電極の間でコヒーレンス増大がみとめられた.理解不能なスペイン語ではみとめられなかった.信号源推定は行っていないが,この結果は機能的MRI計測結果と一貫性を示す.機能的MRI計測において,日本語通常音声とその時系列反転の比較(通常の談話処理)では,左中下側頭回(21野)および脳梁膨大後部皮質(29野)が,劣化音声と通常音声の比較(文脈からの補完処理)では,両側(とくに右)中下前頭回(47野),両側内側前頭皮質(9野),左上頭頂葉(7野・左楔部・右楔前部)および両側(とくに左)下頭頂葉(39・40野)が賦活された.理解できないスペイン語聴取時にはこれらの部位は賦活されなかった.(3)応用へ向けた連携研究先を探索し計測環境の構築に着手した.
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