本研究では、低周波音曝露時の「振動知覚の閾値と人体に生じる物理的振動との関係」、および「振動知覚の等感度レベルと人体に生じる物理的振動との関係」の二つを調べることを目的とする。これらの結果は、低周波音の知覚特性や心理的影響に関する新たな知見となるため、低周波音の影響評価に貢献できると期待される。 平成21年度は、主として、低周波音によって知覚される「頭部の振動感覚」の等感度レベルと、頭部に生じる物理的振動の関係を測定した。その際、「頭部の振動感覚」は、「低周波音曝露時に頭部の全体、あるいはその一部で振動を知覚する感覚」と定義した。テスト音には、16、20、25、31.5、40、50、63、80Hzの8種類の周波数の純音を用いた。また、基準音には、50Hz、80dB(SPL)、および50Hz、85dB(SPL)の2種類の純音を用いた。頭部に生じる物理的振動については、頭部表面の3箇所(額、両耳の後部)に小型の加速度センサを貼り付け、体表面に対して垂直方向の振動を測定した。その結果、2種類の「頭部の振動感覚」の等感度レベルの差はほぼ一定であった。また、その周波数依存性が、以前に測定した「頭部の振動感覚」閾値のそれと類似していたことから、異なる被験者群が、「頭部の振動感覚」を類似のメカニズムで知覚していたと推測された。「頭部の振動感覚」の等感度レベル測定時に頭部に生じる物理的振動の大きさは、過去の文献で報告されている頭部での振動知覚閾値と同レベルか、それよりよりも小さい程度であり、その振動が「頭部の振動感覚」の知覚に寄与している可能性は小さいと考えられた。 さらに、平成21年度には、低周波音による「胸部の振動感覚」の閾値の測定、および胸部に生じる物理的振動の測定を開始した。テスト周波数は、「頭部の振動感覚」の場合と同じ8種類である。この実験は、現在継続中である。
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