本研究の主たる狙いは、低周波音曝露時の「振動知覚の閾値と人体に生じる物理的振動との関係」、および「振動知覚の等感度レベルと人体に生じる物理的振動との関係」の二つを調べることにある。これらの結果は、低周波音の知覚特性や心理的影響に関する新たな知見となるため、低周波音の影響評価に貢献できると期待される。 平成22年度は、主として、16、20、25、31.5、40、50、63、80Hzの8種類の低周波域純音をテスト音に用いた実験を実施し、低周波音によって知覚される「胸部の振動感覚」の閾値、及び、その閾値と胸部に生じる物理的振動の関係を測定した。その際、「胸部の振動感覚」は、「低周波音曝露時に胸部(首から下、鳩尾から上の胴体部分)の全体、あるいはその一部で振動を知覚する感覚」と定義した。胸部に生じる物理的振動については、胸部表面の2箇所(左右の乳首から上へ5cm)に小型・軽量の加速度センサを貼り付け、体表面に対して垂直方向の振動を測定した。 その結果、「胸部の振動感覚」の閾値は、以前に測定した「頭部の振動感覚」の閾値よりも高く、低周波音によって生じる振動感覚を頭部で鋭敏に知覚するという、これまでの知見が再確認された。また、「胸部の振動感覚」の閾値となる音圧レベルで胸部表面に生じる物理的振動の大きさは、曝露音が無い状態(通常の状態)での体表面振動とほぼ同程度(16~50Hz)か、やや高い程度(63~80Hz)であり、この振動が「胸部の振動感覚」の知覚に寄与している可能性は小さいと考えられた。
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