平成20年度は、3年計画の1年目にあたり、基本文献、先行研究の収集を中心に研究を進めた。史料としてMonumenta Germania Paedagogica(ドイツ教育史料集成)を購入し、その史料解読を中心にして研究を進めてきた。また、ドイツ・ハノーヴァー大学のマンフレート・ハイネマン教授を訪問し研究指導を仰ぐとともに同大学及びニーダーザクセン史料館において史料を収集することができた。 これらの作業を通じて得られた成果は以下の通り。ドイツの新教育運動を基盤として成立した20世紀の教育学は、ヘルバルト主義教授法批判の形を取りながら、その根底においては、ドイツ・ロマン主義の表出であった。そしてドイツ・ロマン主義の具体的な展開は、教育雑誌を初めとして総合雑誌にも認めることができた。 こうしたドイツ的なるものへの回帰、あるいはその表出が、1890年代の帝政末期からワイマール期にかけて、思想的=教育学的な議論から、政治的な論争へ展開する。その論客として、没落教養市民層出身のユリアス・ラングベーン、メラー・ファン・デン・ブルックらを挙げることができる。彼らの議論に通底するものは、少なくとも主観的な意味では、ドイツ的なるものへの回帰を梃子にして、教養を根本的に作りかえることにより、新たな人間像と社会像を提供することにあったと言えよう。しかし、彼らの議論の客観的な機能は、保守からの革命を訴えるものであり、ここにナチ・ドイツへと流れ込む思想的基盤が形成されることになった。
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