1 研究の目的と本年度の課題 本研究では、シティズンシップ教育の中核をなす政治的リテラシーの問題に焦点をあてて、その背後にある思想史的背景を検討すると共に、各国における実践的展開をフォローし、日本における展開可能性につなげていくことを目的としている。本年度は、前年度までの成果をふまえて、シティズンシップ教育をめぐる論争と学力論・リテラシー論をめぐる論争とを架橋し、政治的リテラシーを軸に据えた、学校教育における新しいリテラシー論構築の作業に着手した。 2 本年度の成果 本年度の研究成果は以下の二つの点にまとめることができる。 第1は、政治的リテラシーを日本の学校教育に導入する可能性について、理論的・実践的に明らかにした点である。特に近年の教育政策で浮上している「新しい公共」という概念や、「子ども・若者ビジョン」における政治的教養を備えた市民像の意義について、本研究で検討を行ってきたシティズンシップ教育をめぐる欧米の議論の文脈に位置づけて検討を行い、研究成果として発表した。 第2は、政治的リテラシーの中核をなす政治的判断力やそのベースを形成する関係性に関して、クリックやアレント、デリダ、アガンベンらを中心として、欧米の思想史において論点となっている友愛概念のとらえ直しを通じ、同化・共感的な関係から応答的・共闘的な関係への転換の可能性を明らかにした点である。この点に関しては、ポストコロニアルの思想やジュディス・バトラーの思想に注目しつつ理論的に検討を行い、研究成果として発表した。 3 成果の重要性と意義 以上で明らかになった研究成果は、政治や社会とのつながり(レリバンス)に依拠した学校教育におけるカリキュラムの革新を導く可能性をもつものである。この点を、次年度以降の新たな研究テーマとして設定し、さらに研究を深めていくことが、今後の課題である。
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