報告者の長年の研究テーマである「四日市公害と教育」の視座を広げる目的で、H21~22年度は、4大公害裁判の提訴された、四日市以外の地域の公害教育に関して調査を実施した。今年度は主に新潟調査を実施し、現在論文作成中である。 なお、H21年度から22年度にかけて、四日市市立塩浜小学校における健康教育および在日韓国・朝鮮人教育に関して調査研究を深め、下記の「研究発表11[雑誌論文]」に成果を出すことができた。また、現在投稿中の拙著「四日市市立塩浜小学校における在日韓国・朝鮮人教育に関する一考察」(金沢大学教育実践センター紀要、2011年9月発行)も今後の成果予定としてある。塩浜小校区は、公害被害激甚地であり、市内で最も公害病認定児童が多かった。この公害被害に対応した教育実践を明らかにすることは、四日市研究にとって重要な課題であったが、一旦区切りがついた。 同校においてS39年からはじまった健康教育は、大気汚染の一定程度の改善とともに約30年後に後退した。この後退期前のS59年から、在日韓国・朝鮮人教育が開始され、在日児童が在籍しなくなったH16年頃まで市内で最もさかんに実践された。ともすると論争的な教育実践が当然のことのように導入され、発展したのは、S39年から継続してきた健康教育が、児童の生命や健康を守るという原初的な人権教育であり、出自を隠して生きる在日たちのアイデンティティ・クライシスに対応した在日のための人権教育と目的に連続性があったためである。また、当地には同和教育の地道な実践の歴史があったこと、このため塩浜小の教員たちはあらゆる差別に対峙する「同和教育」として実践していたことも資料から明らかになった。なお、三重県内の在日韓国・朝鮮人教育に関する学術論文は管見の限り拙稿のみであり、この分野の知見も前進させることができたといえる。
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