本年度も、ラテン語語彙の用例分析及びそのデータベース化を継続して実施した。前年度の作業経過から、animus、corpus、animaを網羅的に検索して、逐一その用例を検討していくことは、時間的にも労力的にも困難であることが判明したため、本年度からは文献を絞り込んでデータベース化を試みることにし、さらに教育関連語彙という条件をも付加しながら作業を続行した。新たに教育関連語彙として取り上げたのは、educatio、disciplina等である。すると、特に用例が現れるのは、キケロ、クィンティリアヌス、そしてコルメッラの著作群である。またとりわけキケロの著作に関しては、プラトンの著作との照合も必要になってきた。ギリシア語とラテン語を比較検討するという作業にあたって、『聖書』のギリシア語版とラテン語訳の照合も興味深い知見を与えてくれた。本年度の研究成果として、次の結論及び次年度以降の作業仮説をあげておくことができる。1.ラテン語educatioはギリシア語παιδειαにはほとんど対応していないことが明らかになった。παιδειαはむしろdisciplinaと訳されているケースが少なくない。2.educatioは人間よりはむしろ動物の生命及び身体を養い育てる文脈で用いられている場合が圧倒的に多い。3.そのことからもeducatioに対応するギリシア語はむしろτροψηであろうと推測される。4.西洋養生思想における教育概念史の再構築という関心から言えば、<教育(educatio)>はまさに養生思想の文脈のなかで理解されていたと考えられる。5.これらの検証結果と近代以降の身心観とを比較すべく、研究協力者の助力を得て、骨相学と教育の関係をも取り上げた。そこでは人間を測定し、識別・分類し、教育可能か否かを見極めようとする顕著な傾向を読み取ることができた。
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