本年度は、伝統的作文教授法とジャンル・アプローチの関連、各教科における作文指導におけるジャンルの位置を明確にした。伝統的作文教授法との関連については、伝統的作文教授法とシドニー学派と社会構築主義の作文教授法の対比を行い、ついで、言語能力全体の発達の中での書く能力の指導の位置づけを行った。話し言葉を基礎とするとき作文は最もよく教えられる。その書くことにおいてジャンルの知識は長期記憶の中に格納されて作文を書くときの資源となる。作文教育の目的をスキルではなく、独立した書き手、よい書き手を育てることに置くならば、ジャンル・アプローチの目的も独立した書き手、よい書き手を育てることに置くべきである。その指導の終着点は、公的な規範に合致した、公的な読み手を相手として書くことができるようになることであることを明らかにした。 各教科における作文指導におけるジャンルの位置については、教科を横断した作文指導の諸方法を検討した。それらの方法の中には、自分のためのノートをとることの指導から、直接知っている人を読み手とするレポートの指導、直接的な知人の輪の外にいる人を読み手とする指導に向かうべきであるとするもの、自分のための表現作文から、同級生に対する説明を経て、遠い他者に対する説明へと進むべきであるとするもの、インフォーマルな作文から次第にフォーマルな作文へと育てるべきであるとするもの、等があった。レベルで捉えるか、機能で捉えるか、発達段階で捉えるかの違いはあるが、エッセイやレポートだけではなく、より多様な形態の作文を書くように指導する、インフォーマルな作文からフォーマルな作文へと指導する、という点はそれらの方法は共通している。シドニー学派と社会構築主義(ニューレトリック派)のジャンル・アプローチの識別に時間をとられて、実証研究には入れなかった。実証研究を行うことが来年度の課題である。
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