学校教育法成立過程における通信教育、大学通信教育基準(大学基準協会)成立過程における「正規の課程」としての大学通信教育認可のプロセス、および私立大学における通信教育構想と通信教育課程の実態の3点を明らかにするため、文部省および大学基準協会を中心とする日本側関係資料、ネルソンおよびマッグレール文書を中心とするGHQ(CIE)側関係資料、大学通信教育を実施する私立大学側関係資料の収集、分析ならびに聞き取り調査等を行った。その結果、1. 大学通信教育の法的根拠である学校教育法は、「正規の課程」としての大学通信教育を認めてはおらず、アメリカ流のエクステンションの一環としての通信教育を想定していたこと、2. 大学通信教育基準(大学基準協会)は通学課程と並ぶ「正規の課程」としての大学通信教育を公認したが、審議過程で検討は一切行われておらず、一部の私立大学関係者の意志によるところがきわめて大きいこと、さらには、新制大学の発足前に社会教育(通信講座)としてスタートしたことによって、「特修生」という大学入学資格のない者を大量に入学させることによって、3. 高等教育の機会均等を具体的な形で実現したこと(「入学資格の弾力化」という意味の機会均等)、4. 政策的には、旧制から新制への教育制度の切り替えに際して、バイパスの役割を果たしたこと(旧制の中等教育出身者の受け皿)、5. 学生については、「クーラー(冷却媒体)」、つまり「学歴/上昇移動の仮装をとりながら実は時間をかけながら漸次、勉強立身価値をクールアウトしていく」役割を果たしたこと、6. 通信教育をいち早く実施した私立大学は、終戦直後の窮乏期にあってその経営に大きく寄与したこと、等を明らかにした。また、社会通信教育として位置づけられる大学エクステンションについて調査を行い、学校教育としての通信教育と社会教育としての通信教育との分岐点を明らかにした。
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