本研究は、教育基本法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下、地方教育行政法)の改正によって形成された新たな教育行政基本法制の下で現実の地方教育行政がいかに変質・変容するかを調査分析し、また海外における先行事例との比較分析を通して、今後における地方教育行政改革の課題と問題点を解明しようとするものである。 本年度は、第一に、地方教育行政法改正の主要な論点として、(1)教育委員会評価制度、(2)教育委員会の共同設置、(3)教育長への権限委任を析出し、これらが教育委員会制度を形式的には存続させるものの、その実質においては教育の地方自治の実質を団体自治・住民自治の両側面において有名無実化する可能性があることを明らかにした。また、本年度は当初、上記のことを、地方教育行政法改正による地方教育委員会制度改革の実態調査によって実証的に確認することを予定していたが、予備調査の段階で各地方公共団体における教育委員会評価や教育振興基本計画の実施が進んでいないことが確認されたため、本調査は次年度に繰り延べることとした。 第二に、全国学力・学習状況調査の教育行政法制上の位置づけを法的に検討し、行政調査としての合法的になしうる調査内容とその利用の限界を明らかにした。また、同調査が地方教育行政の実態において果たしている役割りを検討し、それが合法的行政調査の範囲を逸脱している可能性があることを論証した。なお、全国学力・学習状況調査が教育委員会の施策改善にいかなる影響を与えているかを実証的に明らかにすることを予定していた。教育振興基本計画を策定したのは2008年度末で11都道県に留まり、現状では同調査が都道府県段階の教育施策改善に生かされていない可能性がある。そこで、次年度以降も引き続き調査を行うこととした。
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