本研究は、教育基本法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の改正によって形成される新たな教育行政基本法制の下で、地方教育行政がいかに変質・変容するかを調査分析し、今後における地方教育行政改革の課題と問題点を解明しようとするものとして出発した。この研究を進める過程で学校教育法改正や全国学力テストが地方教育行政の在り方に大きな変化をもたらしていることが明らかとなったため研究対象を拡張する一方、政権交代により教育基本法・地方教育行政法改正以後の教育行政改革のペースがダウンしており、研究開始時に地方教育行政改革の推進装置となると予想された教育振興基本計画の策定が遅延していることから、教育振興基本計画に関する調査研究を見合わせてきた。他方、子育て世帯の相対的貧困率の上昇を受けて、それに対応する子育て・教育条件整備が地方教育行政の重要課題と認識され、今後の地方教育行政の在り方にも大きなインパクトをもたらす可能性があるため、これらを本研究の対象に組み込んで研究を進めた。2010年度の研究成果は次のように要約される。(1)全国学力テストの実施とこれに基づく教育評価システムが形成されつつあり、これにより学校教育及び地方教育行政の目的・目標が一元的に管理される傾向が強まっており、かつそれが「中央集権」ではなく「地方分権」の拡大と認識されていること。(2)子どもの貧困が国政及び地方行政の重要課題の一つと捉えられ子ども手当・高校授業料実質無償化が制度化された反面、これらへの国民的合意は充分ではなく、格差・貧困政策への公財政支出は不安定な状態にあること。この点について、イギリス子ども貧困法の成立過程における合意形成過程や教育行政施策の解明が有益な示唆を与えていること。(3)近年の教育行政研究は制度改革とそのアクターに焦点を当てているが、地域・学校における民主主義の諸過程への着目が重要であること。
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