わが国最大規模を誇るS社のK製鉄所を事例として鉄鋼業の教育訓練についてインセンティブな調査研究を実施した。鉄鋼業とは異なり、今なお高度な熟練を必要とするために用意周到且つ手厚い技術、技能教育が用意されている。階層別教育、職能別教育いずれにおいても技術、技能教育との強固な結びつきが見られる。昇進・昇格と通信教育や国家資格とのリンクが重視されていることも見逃せない。こうした結合度の高まりと拡がりは教育訓練への強烈なインセンティブを惹起している。さらに、職場レベルのインフォーマルな教育が拡大していることである。例えば、トラブルやクレーム処理に対処するために行われる教育、トラブル防止のために当事者による報告書の作成義務や再発防止検討会等々、いわゆるインフォーマルなoffJTが行われていることである。 一方、自動車産業のライン・オペレータに求められる熟練は、鉄鋼労働のそれに比べて低いことが実証されているが、A社の社立学校であるA学園を事例として調査研究を実施した。学園の基本理念は生産活動の中核となる技能者を養成することである。A学園は中卒3ヶ年の教育機関であり、A社の工場がある地域から毎年40名程度を募集している。学科は機械科、板金科、自動車製造科、電気制御回路組立科の4科からなる。学園教育の狙いは将来の職長、工長層の育成にあり、教育内容の特徴は一般の工業高校よりも実習時間の割合が高いことである。学園生には手当が支給される。間接部門に配置された学園生は、いずれの職場でも学園で修得した技能が活かせる仕事・職務に従事している。高卒の技能員に比べて、職場の中核層になる比率は高い。
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