本年度は、1966年「ILO・ユネスコの教員の地位に関する勧告」を対象に、同フォローアップの2008年共同専門家委員会調査団報告書に照らし、50年代末までの準備期、地位勧告の前後期、70年代から80年代、90年代以降の国際諸機関の変化、といった諸区分における合意形成の段階別特徴を再整理した。その成果は日本教師教育学会第18回大会発表と論文(『季論21』掲載)において公表している。いずれも2008年8月実施の本科研費:海外出張による現地資料調査(ユネスコ文書館、ILO文書館、10Eロンドン大学教育研究院文書館)をふまえたものである。教員憲章としての性格が50年代の準備経過から刻印されていること、66年成立時の原案作成・採択・展開を通じて他分野の国際的合意形成との多面的な連関が見られることなど、これまで明らかにしてきた合意形成の特徴づけが今回の作業でいっそう明確になったと思われる(前掲論文)。海外出張では、さらに機関担当者数名のインタヴューも行い、教師専門職性発達に関する動向に関する資料収集によって新たな知見を得た。教員評価論の前提となる専門職性に関する国際的合意形成の分析は重要であり、専門職性公証システムと教職諸条件の二方向から検討した結果、同システムに関する新たな仮説を提案することができた(それぞれ『人間と教育』及び『高校のひろば』掲載の二つの論文に掲載)。本研究テーマにかかわるEU圏レベルの急展開があり、10Eにおける情報収集で研究の見通しが得られたメリットも大きい。以上が本研究の第1年度の状況である。急激な経済の悪化により(航空運賃サーチャージなど)、現地調査が1回のみに限られ、課題の多くを先送りする結果となったが、次年度で仮説の検証作業を含む研究を継続する予定である。
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