科研の最終年度にあたり、本年は、テーマ「教員評価基準をめぐる国際的合意形成にあらわれた二律背反」として3ヵ年の研究の一定のまとめを行い、学会紀要論文(査読有)に掲載することができた。 そこでは、国際的合意形成のレベルにおいても、一方では教員評価における客観性の要請があるにもかかわらず、他方では教育実践力量における主観性の評価を避けることができないという、表面的には対立的にみえる基準評価の二律背反の困難性を扱っている。 これまで取り組んできたILO・ユネスコ「教員の地位勧告」のフォローアップにかかわる専門機関CEARTが携わった日本の事例を対象とし、その問題群の打開の方向性がどのようであるかを検討した。 すなわち、教員評価の主観性と客観性は機械的に区別できず、教員の制度的地位、学校やクラスなどの諸段階における主観性が、それぞれのレベルで客観化される「主観の客観化」のプロセスに注目することが求められる。そこで展開する教員評価基準化の動的なプロセスと、その基準化を促す「対話の重層性」がきわめて重要であることを同論文で明らかにしている。この研究成果によって、教員評価の公証システムや個人・集団のアカウンタビリティの意味などについても、国際的合意形成レベルの基準化動向をより明確にできる方法的視点を得ることができた。 さらに、こうした対話の重層性の意義とかかわって、子どもの教育権など他の諸権利、あるいはEUなど合意形成の新たな圏域の動きなど、内的・外的な関連における教員評価の基準化の位置づけについても、本年はいくつかの成果を出すことができた。前者については紀要論文(査読有)「国際的合意形成からみた教育権と義務教育の危機」、後者については報告書「EU圏にみる教師専門職性の国際標準化」にまとめ、教員評価基準化のプロセスにおける留意点を明らかにすることができた。
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