本年度は、研究課題のイタリアにおける生涯学習支援者の形成に関する先行研究の動向をふまえて研究の枠組みを仮説的に設定し、予備調査を実施することに重点をおいた。特にコンピテンシー(社会的・実務的)能力の概念と学習支援者形成との関連を明らかにするため、EU、イタリアにおけるコンピテンシーに関連する文献収集も広くおこなった。 イタリアの生涯学習支援者の形成には3つの歴史的系譜があることが明らかになった。第一は、成人教育指導者の範疇に属する人々で、地方自治体成人教育政策担当者、成人教育関連施設職員等からなる。社会教育主事のような資格は存在せず、学芸員・図書館司書・青年施設指導員などの専門職が形成されている。国の地域生涯教育センターでは、教員有資格者が成人基礎教育の担い手となっている。第二は、民間教育文化団体の専従者であり、多くは法人資格を得て活動している。行政からの事業・施設の委託が公募によっておこなわれ、法人としての事業評価をつうじて専門性が形成されつつある。第三は、継続職業訓練に従事する人々で、公共の雇用センター職員と民間生涯学習事業者が存在する。継続職業訓練は、EU全体の戦略的な人材養成のもとで2000年代に各州の重点施策となっており、新分野として拡大しつつある。職業訓練分野と成人教育分野の統合化も進んでいる。 三つの系譜の生涯学習支援者の専門性は、生涯学習支援の法制的枠組み、事業体系と評価、雇用条件と身分によって多様性があり、現状では専門職としての職務内容とコンピテンシーの認定について統一的理解があるわけではない。しかし、生涯学習支援者を広くとらえ、諸分野を統合的に理解する動向のもとで、コンピテンシーへの関心が高まっている。次年度は実態調査をつうじて、生涯学習支援者の専門性とコンピテンシーの認定の関係を具体的に明らかにしたい。
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