本年度は、3年間継続した本研究のまとめの年にあたり、ヨーロッパ全体の生涯学習支援方策のもとでの生涯学習・成人教育支援者の形成の動向と課題についてのマクロ的な視野に基づき、イギリス、フランス、ドイツに関する専門研究者との意見交換、専門的な知見の提供を受けた上でイタリアの特色と課題を認識することに力点をおいた。 さらに、今まで積み重ねてきたイタリアの実態調査を補完するために、イタリア成人教育研究者の見解を整理し、補完的にインタビュー調査を試みた。 結果として以下の点が明らかになった、イタリアでは2000年代に入り、ヨーロッパ全体の生涯学習推進方策の支援を受けて、国・州における生涯学習の立案、生涯学習施設の設置、専門性をもった職員の配置がおこなわれ、生涯学習事業及び生涯学習支援者の質が問われるようになった。しかし、イギリス、フランス、ドイツなど北欧・中欧と比較するとその基盤は脆弱であり、いまだ生涯学習支援者の職業的なプロフィールが明確に確立されているとはいいがたい。しかし、現場職員としての一定の蓄積をみている分野は雇用センターの若年労働者支援の職員、地域生涯教育センター職員、社会保健分野でハンデイキャップをもつ人々を支援する社会-教育指導員などであり、これについては実践的な蓄積・集団としての能力形成にとどまらず、大学における養成訓練も組織的におこなわれている。大学のかつての教員養成学部が生涯学習学部となり、州の政策と連動しながらこれらの現場職員の養成、インターンシップをおこなっており、そのコンピテンシーについての理論的な検討も深められてきている。社会的弱者をターゲットとする社会-教育指導員の役割・機能は日本の現状と比較して興味深い。以上、本年度の研究成果をふまえて、成果報告書の作成をおこなう。
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