南米人保育者対象の就学準備に関する調査結果として、認知的発達が他の領域に比べて若干重要度が低く、保育実践では習慣形成や社会性の向上、母国語の学習促進などに力を注いでいることがわかった。これらの結果と日本人保育者の調査結果との比較したところ、日本人保育者が学校での集団性に関する項目を重視する傾向があるのに対し、南米人保育者は個々の子どもの情緒や態度に関する項目をより重視する傾向が窺えた。さらに、いずれの保育実践においても南米人幼児の家庭での学習支援の不十分さを保育施設での教育によって補償しようとする、いわゆる補償教育的な役割認識や実践に乏しいことが明らかとなった。以上に加え、昨年度に保育現場での継続的観察や各種検査を行った南米人幼児については、小学1年学級での授業観察や担任教諭との面談を行い、就学前段階での保育内容の適切性や小学校移行後の適応状況を調べた。観察対象の保育現場では外国人幼児と小学校移行を意識した保育内容を展開しており(園生活に組み込まれた日本語の読み書き算や運動遊び、集団生活への適応促進、母語話者による日常的な支援、保護者への働きかけなど)、小学校でも卒園児の就学準備の高さが評価されていた。ただし、就学準備の評価に最も大きな影響を与えていたのは、小学校においても認知的発達よりも集団生活の規範遵守を中心とする社会的発達の領域であった。就学前検査によって言語的問題が見られたものの、社会性の高い児童については保育現場でも小学校でもそうした問題が見逃されており、就学前後での客観的検査の必要性が示唆された。以上の研究結果は複数の学会で発表を行った。2012年2月には本研究の総括として「在日南米人幼児の就学に向けた支援を考える-就学前に何を習得すべきか」の表題で公開シンポジウムを実施し、多くの外国人支援や保育の実践者の参加を得て、研究発表や事例報告にもとづき意見交換を行った。
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