研究概要 |
本研究の初年度である平成20年度においては、標記研究主題の中でも、特に米国州政府の教育統治に関わる文献調査を中心として取り組み、副次的に現地調査を実施した。 州政府の教育統治に関しては、研究費の図書費を活用して州教育行財政および州法の規定に関連した図書文献を収集し、そのうちのいくつかに批判的な検討を加えてきている。米国では教育に社会問題解決を期待し、歴史的に教育改革が推進されてきている。特に、20世紀初期の革新主義改革、1960年代の公民権運動、1980年代以降の卓越性運動などの盛り上がりにおいて、しだいに州教育当局の役割の強化が求められ、州知事、州教育長、州教育委員会などは、教育財政面での州負担金の50パーセント突破が示しているように、学区に対して今日ではきわめて強い影響力を有している。平成20年度はこうした経緯について文献で明らかにすると同時に、1990年代から顕著となってきている州による学区と学校の直轄統治の前史に位置する連邦一州-学区の権限関係について整理を試みた。 また、2010年ころまでに州教育当局による学力低迷学区の直轄管理の可能性が示唆されているカリフォルニア州の実態を部分的に明らかにするために、サンフランシスコのNPOを訪問し、活動の実態を探る中で、同州の公立学校教育の現状と課題について明らかにすることを試みた。実際に訪問したのはサンフランシスコ市内の低所得・高学力児童生徒を私立学校に通学させるための支援活動を行っているSMART(Schools, Mentoring and Resource Team)を訪問し、責任者へのインタビューを試みた。サンフランシスコのみでなく特に都市部の公立学校教育の質的低下に関して多くの米国人の共有する危機意識が私立学校教育の隆盛をもたらしている要因となっていた。つまり、私立学校を公教育に含めない米国の教育システムにおいて、特に都市部ではSMARTの活動に見られるように私立学校への脱出支援の道が部分的に開かれており、それが結果的に公立学校の低学力を加速させることになっていることを、今回の訪問調査で明らかにすることができた。
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