5年間という比較的に長期にわたる本研究はつぎの3点を目的として掲げている。 (1)1930年代以降のロシア保育界の動向を、ユニバーサルな保育制度(希望するどの子どもにも一定水準の保育を無料か廉価で保障できる制度)の構想と実態の交錯に焦点をあてて、追跡する。 (2)そこで明らかになる保育制度の様態の特徴を20世紀日本の保育制度のそれと比較する。 (3)それらを通して、現代社会に適用可能なユニバーサルな保育制度に関するモデル仮説を構築する。 このうち、初年度にあたる20年度は、主に(1)を研究するうえでの基盤整備に集中的にとりくんだ。 具体的には、数回にわたって滞在した北海道大学を初めてとして、国内の主要大学の図書館に所蔵されている主に20世紀後半のロシア語文献を精力的に閲覧し、その一部を複写した。20世紀前半すなわち戦前までと異なり、戦後にロシアで刊行された関連文献のかなりの部分は北大スラブ研究センターや一橋大学経済研究所などの資料室で系統的に収集・保存されているからである。 また、それと並行して、ロシアの保育と表現教育を概観した短文を発表するとともに、北大スラブ研究センターのセミナーで帝政末期の保育に関する研究報告を行なった。
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