21年度は、初等教育普遍化に関する企業によるNGOならびに政府の支援の事例研究として、サブサハラ・アフリカ(タンザニア)、ならびに東南アジア(タイ、ベトナム)の調査・分析を行った。 タンザニアの事例調査・分析では次のような結果が得られた。(1)国内企業が十分に発展していないため、支援を行う企業の多くは外資系企業である。国内企業が自社の貢献で初等教育の状況を改善したいというインドとは異なり、外国企業は企業戦略にとって有効だと考える支援を行うという姿勢が明確である。(2)NGOが積極的に企業との協力関係を築こうとする傾向はあまりみられず、両者の連携教育プロジェクトには政府も関わるのが一般的である。また、政府関係機関が企業と支援される学校、地域コミュニティ等との橋渡しを行っている。(3)地域コミュニティが自ら必要であると判断した場合に企業からの支援の交渉等を行っており、独立後のコミュニティ運動の歴史からコミュニティには十分な交渉力があるとの指摘がある。(4)NGOや教育関係者からは、企業による支援はその継続性が確保できない、利益追求という姿勢が強いなどの問題点が指摘された。(5)Commonwealth Education Fundが、タンザニアとバングラデシュで、企業による初等教育支援の調査を実施し、この方策を政策方針のひとつに取り入れつつある。 タイの事例調査・分析では次のような結果が得られた。(1)国家教育法(1999)第8章「教育への資源及び投資」第58条を根拠として、私的団体、企業、社会的機関、及び外国からの財政的支援を通じた資源調達が公的に認められている。(2)NGOを通じた間接的な支援の場合には支援額の100%、教育機関への直接的な支援の場合200%が税制上の控除の対象になるというインセンティブがある。(3)教育行政の地方分権化の影響もあり、教育省基礎教育委員会と県教育局のレベルでは、一部のNGOを通じた間接的な支援以外、末端の学校レベルにおける企業の支援状況を把握できていない。(4)企業はCSR活動を行う場合、社会貢献(特に住民対策として特定の地域に対する貢献)、社員研修の一環、イメージ・アップ等がその主な理由であり、社内にCSR部署がない場合にNGOを利用するケースが多い。 ベトナム(ホーチミン市)の事例調査・分析では、(1)社会主義体制であることから、初等教育の普及は全て国家の権限及び責任であるという考え方から、支援を行う企業は少なくその多くは外資系企業。(2)教育分野に限らず、外資系企業は自然災害等でも政府から半強制的寄付を常に強要され、その寄付は税制上の控除の対象にはならない。(3)外資系企業の多くは、周辺の工業団地に進出した輸出志向型工場であることから、CSRの必要性を感じない場合が多い。
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