本研究の目的は、自然災害に被災した児童生徒の心身のケアを迅速にかつ適切に進めていくために、被災時の避難所としての学校保健室の機能と養護教諭の役割を明らかにするすることである。前年度は、地震被災地の養護教諭を対象とした実態調査(質的研究)の実施した研究結果を2010年第69回日本公衆衛生学会(東京)で発表し、同学会誌「公衆衛生雑誌58巻4号」に掲載。引き続き全生塵、自然災害時に応急救護としての機能を学校保健室が持てるために、保健室の備品等の整備現状と課題を明らかにすることを目的に、近年地震災害を経験した柏崎市、長岡市を含む新潟県の主要4市の公立学校に勤務する養護教諭372名(県全養護教諭の113に相当)を対象に、設置状況や必要な備品に関する認識等についての自記式質問紙調査を2010年2月に実施した。結果、207名の養護教諭から回答を得た(回収率55.6%)。養護教諭が災害時において学校保健室に必要と考える備品等は、「情報収集のための器機」と「救急処置・疾病予防処置」に関する内容が多かった。しかし、実際の保健室の整備状況は、パソコンやインターネットの設置率は8割を超えたが、テレビの設置率は1割ほどであった。また、救急箱や救急用医薬品は整備されていたが、松葉杖や滅菌機は4割弱、車いすの設置は3割弱であった。保健室に隣接するトイレやシャワーの設置は1割であった。保健室の設備状況を被災地群と非被災地群とで比較すると、「懐中電灯」「冷暖房」「加湿器」「プリンター」「松葉づえ」等の12項目で有意差が見られた(p<0.01)。保健室環境では、救急車が隣接できない保健室が5割弱を占め、災害緊急時に一時的な保健室の受入れは不可能であると回答した養護教諭は3割弱を占めた。これらの結果から、新潟県中越沖地震の際、被災直後に学校教職員が学校に到着する前には既に、避難住民が学校保健室を使用していたり、保健室の備品等が提供されていたとの報告もあり、災害緊急時に学校保健室が児童生徒や教職員への対応のみならず、高齢者や小児を含む地元住民の緊急的な多様なケアニーズに対応するためには、保健室の備品や環境整備が喫緊の課題であることが明らかになった。
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