21度はパリ郊外のリセにてフランス全土で行われるバカロレア模擬試験(Bac Blanc)のフランス語(文学)の口述試験を観察し、併せて論文試験の準備と試験後の添削の授業、地理・歴史、哲学など多くの授業観察と教員のインタビューを行い、バカロレア準備教育の全体像を具体的に把握することが出来た。文学の口述試験は、予想に反してかなり定型化しており、作品が書かれた時代の文学運動や思潮、社会状況と関連させ、その時代の「代表的一例」として、提示された作品(抜粋)を分析することが求められている(ここでいう分析とはキーワードになる専門用語を定義したうえで、それらを使って解釈・説明することを指す)。作品そのものを味わったり、読解することは期待されておらず、日本の文学鑑賞とは全く観点が異なることがわかった。また詳細な評価表が生徒にも示され評価の観点が教師と生徒で共有されているので、口述・論文ともに文学の試験といえども客観的な評価が可能なことも実感出来た。 また、バカロレアの神髄とも言えるフランス式論文の書き方を教える授業では、かつては教師の示すモデルから一握りのよく出来る生徒が「感覚的」に学んだ構造や弁証法を、ワークシートや練習問題、討論などから具体化、視覚化して丁寧に教えていることもわかった。哲学についても同様で、質問を変えながら抽象的概念の様々な側面に光を当てる高度な授業が行われつつも、教師が最後に論点をまとめる試験対策的な教授法が取られていた。しかしいずれの場合も、バカロレアを通して中等教育のプログラム全体が、高等教育の基礎をつくる構造になっており、高等教育と断絶する形で入試が行われる日本とは対照的である。 バカロレアにおける国語(フランス語=文学鑑賞)と地理・歴史、哲学は、フランス国民としての知識を共有させつつ、弁証法で書く、話す技術を身につけさせることでそれら知識の表現法をも形成する。その意味においてもバカロレアが果たす文化継承の機能・役割は大きいと結論付けられる。
|