本研究は、スイス在住の日系国際児の教育やアイデンティティ形成を、アンケートや聴き取り調査から解明することを目的とした。特に、日本語などの日本文化についての家庭や日本語教育機関での教育や、自己と他者とのちがいに対する意味づけ方、日本やスイスに対する国際児の関係の取り方に着目した。 州教育委員会の多文化教育や移民教育に関する政策文書からは、移民の学力向上や社会の統合のために、第二言語としてのドイツ語教育が重視されていることがわかった。また、母語母文化教育が各州で実施されていることがわかった。その運営等は個々の言語集団にまかされているが、母語学習が公的に認知され、教員研修の機会が用意されたり、言語集団間や公立学校との連携が図られたりしていた。 日本語教育機関での保護者アンケートからは、在瑞日系国際結婚家庭の社会的背景や教育戦略が明らかになった。対象者の多くは、平均以上に高い教育歴や多文化経験をもっていた。渡瑞は、恋愛結婚などの主体的な選択の結果であることが多い。スイスでの情報やネットワークは、配偶者や日本語教育機関などから得ていた。親族の結合やアイデンティティ形成のために、日本語や日本文化の継承が重視されていたが、それ以上に、スイスでの教育達成や就業が優先されていた。二文化・二言語の習得を望む親がいる一方、子どもには文化や国家にとらわれずに生きてほしいと望む親もいた。 なお、3年間の本研究の成果は、報告書にまとめた。第I部は調査報告として、日本語教育機関の概要と、子ども、および、保護者への聞き取り調査の結果をまとめた。第II部は論考として、スイスにおける多文化教育政策や、スイスで暮らす日系国際結婚家庭の社会的背景と教育戦略、日本語を継承する母親や教師、子どもの語りの分析、日本語学校の教育方針や実践の特徴についてまとめた。
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