平成20年度の研究成果は、第一にEU(特にイギリスとフランスに焦点を当てた)における中国系新移民の流入の実態と既存の中国系コミュニティへの影響について明らかにしたこと、第二にイギリスのロンドンとフランスのパリにおける現地調査に基づいて、学校への中国系新移民の子どもの受け入れの現状について明らかにしたことである。具体的には以下の通りである。 1.「中国系新移民」と一括りに言っても、イギリスとフランスにおいては出身地や移住後の居住形態や就業形態が異なっていることが明らかになった。イギリスへの新移民は中国福建省出身者と中国東北部出身者に、フランスへの新移民は中国浙江省出身者と中国東北部出身者に分類でき、それぞれの移住理由や移住の過程、さらに移住後の生活実態について明らかにした。 2.新移民の流入が既存の中国系コミュニティに及ぼした影響を中国系アソシエーションのあり方から分析した。イギリスでは新移民の流入は中国系アソシエーションに影響を与えていないのに対して、フランスでは新移民流入後の1990年代後半以降、いくつかの中国系アソシエーションが設立されたことから、既存の中国系コミュニティへの影響がみてとれた。 3.ロンドンでは中国系新移民の子どもは特定の学校に集中することなく、目立たない存在であるのに対して、パリにおいては、特に新しいチャイナタウンと言われているパリ北東部ベルビル周辺の学校に中国系新移民の子どもが集中し、半数以上が中国系の子どもの学校もあった。両国において、中国系新移民の子どもは新しく海外から流入した英語やフランス語の不十分な子どもへのサポートを受けていた。特にパリにおいては、中国系の多い学校では民族心理学者によって中国系の親へのサポートも行われていた。
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