平成21年度の研究成果は、第一にEU(特にフランス)における中国系新移民の流入による既存の中国系コミュニティへの影響について明らかにしたこと、第二にフランスのパリにおける現地調査に基づいて、特に初等教育に焦点を当てて、小学校へ流入した中国系新移民の子どもの直面する問題と学校の対応策について明らかにしたことである。具体的には以下の通りである。 1.フランスでは新移民流入後の1990年代後半以降、パリにいくつかの新しい中国系新移民によるアソシエーションが設立された。その活動を検討することを通して、新移民は、以前に流入した中国浙江省出身者や中国系インドシナ難民による既存の中国系コミュニティとはほとんど関わりが無く、北東部ベルビル地区に新移民によるコミュニティを既存のコミュニティとは別に新たに形成していることがわかった。 2.集住地区の小学校の入門学級には中国系新移民の子どもが集中しているため、中国系同士で固まって中国語を話すこともあって、移住後3~4年経ってもフランス語能力不足が解消できないことがわかった。また、教師や中国系アソシエーションのスタッフからは、例えば中国系の子どもは積極的に自分の意見を話さないことや引っ込み思案であること等が挙げられ、これらは文化的差異に起因する問題であることが指摘された。学校側の対応策としては、中国人民族精神科医が主導する中国系の親のための話し合い会(パポテック)を開催したり、中国系アソシエーションと連携して、中国系新移民の教育問題に詳しい専門家に問題のある生徒について相談したり、文化的差異に起因する問題を父兄会で説明してもらったりしていた。これらはある程度の効果を挙げていた。フランスは文化的異質性を学校教育から排除する言説を形成してきたが、教育現場においては中国系新移民の文化的特殊性に配慮した実践が行われていることが明らかになった。
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