平成22年度の研究成果は、第一にフランス・パリの中学校と高校へ流入した中国系新移民の生徒の直面する問題と学校の対応策についてまとめたこと、第二にオランダのアムステルダムにおける現地調査に基づいて、中国系コミュニティの歴史的変遷や新移民の流入による既存の中国系コミュニティへの影響、さらに移民政策における中国系移民の位置づけについて、オランダの中国系コミュニティをフランスとイギリスのそれと比較検討したことである。具体的には以下の通りである。 1、パリの中国系新移民集住地区近くの中学校と高校では、フランス語集中学級や受け入れ学級に中国系が過半数を占め、フランス語能力不足や移住形態による家庭環境の変化のもたらす自信喪失や勉学意欲喪失、それに起因する欠席や退学の問題が顕在化していることがわかった。問題を解決するために、特に中学校において親や中国系アソシエーションと連帯した実践が行われていた。こうした実践は、学業失敗を移民の問題ではなく地域の問題として捉えるZEP政策の基盤にあった考え方には繋がらないことを示した点で意義深い。 2、イギリスとフランスとオランダの中国系コミュニティは、新移民の流入によって中国系移民の出身地が多様化し各国が異なった仕方で拡大していた。しかし、他方で北京語の重要性が高まるという共通の動向を示し、北京語を核とする「ヨーロッパの中国系コミュニティ」として捉えることのできる可能性も示していた。さらに、三国の中国系移民は、主流社会において問題のない集団として捉えられていることは共通しているが、移民政策においてオランダの中国系移民は「エスニック・マイノリティ」に含まれず、それがオランダ社会において議論の対象となった。三国の中国系コミュニティの特徴は、中国系新移民の子どもに対する教育のあり方に影響を与えていることがわかった。
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