初年度であった平成20年度は、(1)次年度以降の実査に向けた人脈作り、に並行して、(2)本科研メンバーにとって関連分野の専門家および現場の実践者をゲストに招いた研究会(その前提としての文献研究)、(3)公共支出の1つの鍵である社会的連帯意識を探ることを目的とした予備的質問紙調査、の3点を実施した。 (1)については、研究代表者の筒井を中心に、地方自治体の職員・市民を対象としたセミナーやNPOの研究会などで、「キャリアラダー戦略」についての講演を精力的にこなした。また、研究分担者の櫻井は、先進的な労働組合である電機連合と、これと関連して地方自治体のインタビュー調査を実施した。その上で、手ごたえがあった機関を、次年度実査の候補とした。予定では、関東某県の若年就労支援NPOとその連携諸企業、関西某県の雇用能力開発機構解散後の新規組織、および両県の自治体にて、インタビュー、フィールドワークを実施する。 (2)については、労働法学、労使関係国際比較論、労働組合論、地方自治論の専門家と、労働問題や若年就労支援のNPOのコアメンバー、社会福祉法人経営者らを招いて、ディスカッションを行った。その成果については、テープお越しをし、報告書として冊子にまとめた(ゲストスピーカーから「研究会内限り」という申し入れがあったため、原則対外秘)。 以上のような取り組みから見えてきたのは、まだ試論的・予備的なものにすぎないが、(1)社会的に不利な人々にとって本当に重要な課題は脱政治化されていること、(2)NPOや自治体が個別の意義ある取り組みを積み上げても、必ずしも大きな社会的なうねりとならないことに現場がもどかしさを感じていること、(3)労働に関する制度や構造といった社会学的知識の欠如と「純粋」能力主義は、ワーキングプアの自己責任論に向かわしめる、などである。こうした「感触」を手がかりに、次年度の実査に精進したい。
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