本研究は、わが国の開発途上国向け国際教育協力の理念及び政策の歴史を振り返りながら、わが国の国際教育協力の将来像を明らかにすることを目的とする。本年度は、主として、国際教育協力への取組みの草創期にあたる1950年代半ばから1970年代初頭までの時期に焦点をあて、関連資料・情報を体系的に収集、整理、分析する作業を行った。具体的には、文部科学省図書室、国立教育政策研究所図書館、JICA研究所図書館等において、関連する文献資料の検索、収集を行った。また、文部省OB数人にインタビュー調査を行った。このような調査の結果、わが国の国際教育協力は、ユネスコの主導した1960年代のアジア地域での初等教育普及計画(カラチ・プラン)への支援に関連して、かなりの熱意と意欲を持って取組まれた時期があったことが判明した。また、外務省サイドでも、わが国に対する「エコノミック・アニマル論」批判や、経済協力政策への批判(わが国の輸出振興や市場確保に直結した円借款事業の優位)を意識して、ソフトな教育分野への援助を主張しはじめるのも、この時期からであることが明らかとなった。教育援助の理念・方針をめぐっては、相手国のナショナリズムを刺激し、反発をまねく恐れのある初等教育分野に対しては、教育援助は、きわめて慎重な配慮を必要とするとの主張があり、その是非をめぐって議論が展開された。 こうした歴史的経緯は、当該分野の政策担当者、研究者、協力事業実施機関関係者にも、ほとんど知られていなかった事実であり、わが国国際教育協力の歴史的ルーツの全体像を明らかにしたという意味で、意義のあるものと考えられる。
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