本研究は、平成17年度から平成19年度まで3カ年間にわたって行った科学研究費補助金に基づく研究「我が国における児童中心主義(創造主義)の美術教育に関する研究-創造美育運動を中心に-」(課題番号17530634)の成果をもとに、我が国における児童中心主義(創造主義)の美術教育の実態及び戦後美術教育に与えた影響について、さらに詳細に明らかしようとするものである。 前研究では、創造美育運動の組織及び活動原理を明らかにするとともに、1940年代における欧米の児童中心主義の美術教育の理念及び方法について調査し、青年前期(思春期)の美術教育に対する無関心(軽視)が、我が国の創造美育運動に固有の現象であったことを明らかにした。 本研究は、これまでの研究成果をふまえて、特定の地域あるいは個人に即して調査を行うことにより、創造美育運動の実態を学校現場における教師の日常的な教育活動に即して明らかにようとしたものである。本研究では、創造美育運動に最も早い時期から関わり、地元福井県をはじめとして、創造美育運動の全国的な発展に重要な役割を果たした木水育男に注目し、中学校における美術教育の実践について分析することにより、青年前期(思春期)の子どもを対象とする創造主義の美術教育の課題について考察した。また合わせて、創造美育運動に批判的な立場から、高校生を対象とする独自の美術教育論を展開した大勝恵一郎の実践について考察し、青年前期(思春期)の美術教育における木水育男の美術教育の意義及び位置づけ等について検討した。 なお、同時代の教育状況との関連については、近年戦後教育史に研究の再検討が行われており、最新の動向をふまえた調査がさらに必要である。
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