研究概要 |
近年の認知科学研究からは、人間の思考活動は外の事物との相互作用として成立するものであり,道具といった外的資源は人間の行動を誘発する情報を持つとされ,物理的環境,人工物,他者,社会等といった外界の情報を無秩序な異物と見なすのではなく,我々の認知が依存し,認知課題を実行する際に利用し得る資源として捉え直すようになった。しかし、外的リソースをいかに活用したら人間の認知や問題解決に有効に機能するのかについては研究されていないのが現状である。そこで、本年度は、(1)人間の認知活動に外的リソースがどのように働くかを明らかにする。(2)外的リソースを導入した実験的な授業からその効果を検証する。(3)外的リソースを活用した教授・学習方法の構築を行う。(4)教師教育への適用方法を開発するという手順で研究を進めた。こうした研究の意義は、児童生徒が関わる様々な外的リソースが、思考活動にどのように作用し科学的な概念の形成に有効に働いていくのか、児童生徒の外的リソースの利用に問題はないのかを明らかにし、外的リソースに基づく科学的な概念形成を図るための理科の教授・学習方法を構築したことにある。研究結果からは,物や人といった外的資源は問題解決を促し,科学的な概念形成を図ることに有効に機能することを示すことができた。その大きな理由としては,外的資源があることで問題の解が可視化可能になるということであることが示唆された。外的資源が操作可能であったり,多様な考えを明示することで,解決に必要な制約が顕在化され,科学的な概念の形成を促すと考えることができた。こうした研究成果は、12の事例研究を載せた研究報告書として作成し教師や学生が活用可能な資料として提供することができた。
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