(1)研究の背景と意義 研究者は実践と研究を通して「音楽的体験を共有する『場』づくり」という視点から、教員養成課程学生と児童たちとの音楽交流活動を推進しながら、音楽表現のあり方について考察してきた。表現・鑑賞の体験は学校内にとどまることなく、幅広い人間関係や活動を通して深められるべきであると考え、人格形成にとって大切な表現力、コミュニケーション能力との関連から音楽の表現活動を捉え直すことに研究の意義を見出した。 (2)研究対象と目的 2000年からイタリアで"autonomia"(自主、独立)という語に象徴される教育改革が進行し、各学校では、地域と連携して独自のカリキュラムによる特色ある教育活動が推進されているが、その中で舞台表現教育(Educazione Teatrale以後、「テアートロ教育」)が活発化している。 一方、イタリアの公教育における音楽教育理念は、音・音楽を言語やコミュニケーションの形態から捉え、その意味作用を感受・表現に生かすという考え方に基盤を置いてきた。その上でテアートロ(舞台)を捉えると、それは色彩や図形、声、ことば、身体、音・音楽など、様々な表現言語の共演によって生成すると言えるが、そのような多角的、総合的に進められるテアートロ教育において、音楽言語が他の表現言語と関わってどのように生かされるのか、先述の共有体験の「場」と関連して、イタリアの事例から考察する。 (3)研究の方法 (1)情報収集・文献研究 1)イタリアの教育改革および芸術教育振興に関する行政の取り組みについて 2)イタリアのテアートロ教育の歴史、理念、方法、実践について 3)イタリアの自治体、文化振興財団、劇場、学校連携によるテアートロ教育プロジェクトについて (2)現地調査 1) ロンバルディア州教育研究所(Nucleo Territorial della Lombardia-Agenzia Nazio- nale per lo Sviluppo dell'Autonomia Scolas-tica在ミラノ)のテアートロ教育推進プロジェクトについて 2) ロンバルディア州の小中学校におけるテアートロ教育活動について 3) 大学の教員養成課程のカリキュラムとテアートロ教育関連授業について 4) イタリアの教育者、研究者との共同研究の推進 本研究で「テアートロ教育」は、創造性や美的感性を養うことを目的とした一般教育における幅広い教育活動を対象とする。
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