本研究の目的は、戦後教育改革期において成立した世界史教育がいかなるものであったのかを総合的に解明することにある。具体的には1949年度から新たに高校で実施された世界史について多方面から分析することで、世界史教育が成立期に持っていた原点を明らかにし、世界史教育の意義を再確認するとともに、今後の世界史教育を検討するための共通認識の形成を目指している。 上記目的を達成するため、研究第三年目においては次のようなことに取り組んだ。第一に、世界史教育の成立期に使用された準教科書(正式な教科書ではないが授業で使われた図書)への分析を進め、新たに始められた世界史教育の試みがいかなるものであったのかを考察した。関連して、カトリック教会による西洋史教育の取り組みに関する史料を整理し、公開した。第二に、高校社会科における世界史科目設置をめぐる当時の教育状況の歴史的研究を進める中で、世界史教育成立史の研究のあり方に関する考察を進めた。その中で、当時の言説や関連する回想などを史料や研究成果といかに結び付けて位置づけ、歴史的に評価すべきかを提示し、批評を仰いだ。第三に、当時の教師の方々へのインタビューを継続した。その一部は整理した上で報告をした。また、三年間の全体のまとめに取り組むと同時に、第四に、成立期の世界史教育や関連する教育についての史料や情報の収集を継続した。これらは順次、分析の上で、報告を予定している。 三年間の本研究の取り組みにより、次のような輪郭を描くことができた。世界史教育は、戦後に創設された高等普通教育を担う新制高校において国民共通の教養としての役割を期待された教育であった。東洋史と西洋史の圧倒的な影響下にあり、教育行政も十分な世界史の全体像を提示しない中で、世界史とは何か、社会科世界史とは何かを、戦後世界の激動の中で問い、新たな可能性を求めた教師や研究者がその実現を目指して努力を傾けてきた。
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