本研究における21年度の小目的は、以下の2点であった。(1)批評能力育成の先進実践事例の分析。(2)「批評能力育成プログラム」(試案)の作成。(1)については、批評(美的評価)が音楽カリキュラムに位置付けられている米国カリフォルニア州の中・高等学校の音楽授業の実際を視察し、その実践を調査した。視察したのは、Sinaloa Middle School、Los Cerritos Middle School、Frost Middle school、Somis school、Valley View Middle School、Moorpark High School。カリフォルニア州の中・高等学校(G7~G12)における音楽授業は、ブラスバンド、オーケストラ、コーラス、ゼネラルミュージックが選択科目として用意されているが、日本における鑑賞領域に相当するものは、主としてゼネラルミュージックで行われていた。そこでは、音楽の基礎となる楽典的な事項や音楽史、楽曲を聴いて楽器名やジャンル、様式を学ぶ授業が行われていた。また、ブラスバンドやオーケストラの授業でも、生徒が奏でる音や演奏方法に対して自分たちが評価していくことで美的評価を行う実践が見られた。特に、Sinaloa Middle SchoolやSomis Schoolで用いられていたワークシートは、音楽の諸要素に対する知覚をベースに様式や自分の感情を問うものであり、日本の鑑賞領域の学習ではこれまであまり重視されなかった知覚と感情の結び付きを学ぶ音楽学習の在り方として多くの示唆を得た。 また、日本の先進的な鑑賞授業として熊本県内の2中学校の実践を視察し、同校の教諭とのカンファレンスを行い(2)の試案の構想に着手した。これらの成果は「音楽鑑賞学習における批評の構造」としてモデル化し、「音楽鑑賞学習における批評の構造と思考過程の検討」(『学校音楽教育研究』Vol.14)として論文化した。
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