研究概要 |
本年度は5ヵ年間にわたる研究期間の第4年次であり,戦後日本の理科カリキュラムデザインに関する文献資料の収集に努めると共に,収集した文献資料の分析検討を行った。従来の先行研究では,戦後から1950(昭和25)年に検定教科書が発行されるまでの低学年理科カリキュラムの実態が明確ではなかった。そこで,本年度は理科研究関東地区委員会発行の代用教科書『かんさつときろく』等の一次資料を入手し,戦後の理科カリキュラムの成立と展開,及び理科カリキュラムの日本的特質を明確にする目的で考察を行ったところ,次のような点が明らかになった。 (1)1947(昭和22)年に発足した理科研究関東地区委員会によって作成された第1~3学年用代用教科書『かんさつときろく』(新教育協会)(1948)において,戦前からの『自然の観察』(1941・42)と同一単元は約32~61%であった。残りの単元は同委員会によって新しく盛り込まれていた。(2)1951年に発行された検定教科書『しんたのしいかがく』(日本書籍)は代用教科書『かんさつときろく』の内容をそのまま踏襲するのではなく,1949年2月に告示された教科書検定基準である「理解の目標」に基づいて修正されていた。(3)単元「しゃぼんだま」は『自然の観察』,『かんさつときろく』及び『しんたのしいかがく』においても取り上げられていたが,その内容は変化していた。その背景として,戦後の教科書内容基準としての「理解の目標」が影響していた。(4)このように検定制度に基づく教科書編纂が始まる以前から,理科においては理科研究地方委員会に参画した多くの教師によって,民主的な教科書作成が行われていた。
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