本年度は5カ年間にわたる研究期間の最終年度に当たり,戦後日本のカリキュラムデザインに関する文献収集に努めるとともに,収集した文献資料の分析検討を行った。先行研究においては,小学校理科学習指導要領や理科教科書などに関する研究が主であったが,本年度は学校外での子どもの理科学習にとって重要な位置を占めている科学雑誌に焦点を当てて研究を進めた。その結果,次のような点が明らかになった。 広島図書出版の総合教育雑誌『ぎんのすず』は最盛期の1949(昭和24)年6月頃には120万部刊行され,同年2月には広島県内を中心とした小学生のうち1割が愛読していたと報告されている。同誌は広島図書の社長である松井富一の国際的出版都市建設にかける情熱や記事を執筆した広島高等師範学校教官及び同校附属小学校教諭らの努力によって支えられていた。雑誌『ぎんのすず』の発行期間は昭和21年から昭和28年までと短期間ではあったが,同誌は児童が科学読み物を通して,子どもの身近にある野原や小川などにおける植物や動物の観察,衛生的且つ健康的な生活を送るための生活習慣の形成,星座や宇宙などに対する興味関心の喚起などを促す役割を果たしていたと思われる。戦後の児童用教育出版物の乏しい時代にあって,雑誌『ぎんのすず』は学校外において,児童が多方面にわたって自然について学ぶ情報を提供していた。それと同時に,『ぎんのすず』で取り扱われている内容の一部が代用教科書『りかのとも』(1948)や検定教科書『よいこのかがく』(1949・50)にも引き継がれており,これらの教科書作成に重要な役割を果たしたのではないかと考えられる。
|