変声期には、男女ともに声域の低下が認められる。また、音色の変化や声域の低下を自覚する児童の中には、歌唱に消極的になるケースがしばしば認められる。この時期、指導者が、児童の声種を正しく認知し、声種に応じた声域の拡大や音質の形成を支援することは、声の健康上も望まれるところである。 児童期の発声指導における声種の判断は、従来、聴感覚による指導者の判断に依存していた。しかし、判断者によりソプラノ系かアルト系か二分されることは珍しくない。しかし本研究において、第3フォルマントの位置を注視することで、声種の判断ができる可能性を見いだした。本研究の成果は、第3フォルマント(22kHz表示)の位置が「アルト=9kHz以下」「メゾソプラノ=9kHz±1kHz」「ソプラノ=10kHz以上」の可能性が強いとの結論を得た。 また、変声期の歌唱指導においては、地声と裏声(ファルセット)の歌い分けや、地声と裏声を混合できる発声の指導が有用であり、ポルタメントを用いた発声指導は、換声域のなめらかな歌唱や高音域の拡大や充実に寄与する可能性を見いだした。発声器官が安定しない変声期に、とりわけ男子児童は、高音域を含む楽曲の選曲に際しては、音程の定まり難い地声の発声より、裏声を用いた発声を選択する傾向が認められるが、裏声と地声を混合して楽曲を歌唱することにより、広い音域を自由に歌唱できる発声法の修得に有益である可能性を見出した。 これらの研究成果は、指導者の声種の判断や変声期の歌唱指導の助力となる可能性を有するものである。
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