20年度の60問記憶課題は、前に覚えた写真・言葉と今見聞きした写真・言葉が同じか違うかを○×で答える正誤問題であった。従って、60問120点満点の正答率で集中持続力、注意振分力および近時記憶力の総合力は評価出来たが、○×方式である故に、個々の記憶がおぼろげであっても、鮮明であっても、記憶の精度が答えに反映されないのが方法論的弱点であった。そこで、21年度は個々の記憶の精度を評価できる課題にするために、前に覚えた写真については記憶を絵として表現し、前に覚えた言葉については、2回目に聴いた同じ言葉の虫食い部分を埋める課題方式を用いた。なお、写真も言葉も、この新しい課題方式の目的に叶うように新たに作製した。トレーニングの基本は難易度を段階的に上げることなので、絵を描ける程に写真を記憶するためには、まず提示時間を長くする必要があったが、それにより必然的に言葉課題の長さが長くなった。写真だけに、あるいは言葉だけに集中して記憶するのではなく、両者を同時に記憶する方式、つまり前頭前野の活動を余儀なくする課題であることが本研究計画の要であるゆえである。言葉が長くなったことで、21年度終盤には虫食い部分を前・中・後の三部分に作り得た。こうして、21年度課題は、20年度の○×課題より、はるかに難易度が上昇し、どの児童も必死で課題に取り組むようになり、かつ個々人の記憶力をより精度高く計測出来るようになった。また、児童の学習力は記憶の明確度と相関すると考えられているが、21年度開発の新方式は児童の記憶の明確度の判定・強化にも有効と考えられた。さらに、語彙が少ない低学年生には、当初は言葉記憶課題が予測通り至難であったが、脳トレを重ねるにつれ、1~3年生が想定以上のスピードで成績を上昇させた。20年度の結果と同様に、本研究の対象たる視聴覚記憶力は1~3年生の内に向上させるべき力であることが明らかになった。
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