20年度に、児童の前頭前野の発達を背景とする知能(以下、知能)の基礎力と考えられる"集中持続力、処理速度、注意振分力(作業記憶力)および近時記憶力"(以下、記憶力)を指標的に計測し、さらにトレーニングする目的で開発した視聴覚記憶課題の有効性について、児童の協力を得て検証を行った。この研究から、児童個々人の記憶力を詳細に分析し、その能力に合わせたトレーニングを行うためには、20年度課題だけでは不十分との結果が得られた。それゆえ、21年度には、写真の記憶を絵で答え、かつ小文の記憶を虫食い文の穴(言葉)埋めで答える方式の課題を制作し、改めて検証を行った。この結果、この新方式により、個々人の記憶力の詳細が描出できることを確認できた。ここで、本研究の基本方針は記憶力の指標化なので、次は、新方式課題の難易度を段階的に設定することが目標となった。このために、22年度は、時間をかけて検証できるトレーニング講座を開設した。そして、どんな課題が難しく、どんな課題が容易なのか、さらに、知能の基礎力を向上させるために、他に必要な課題はないかも考慮しつつ、様々な検証を行った。この結果、多くの事実が明らかになったが、例えば、写真課題では、視覚対象についての、大きさ、視野内の位置、向き、奥行きなどの空間認知能力に児童間で大きな差があることがわかった。そして、この能力のトレーニングについては、小文記憶を交えない単独トレーニングも必要であると結論された。また、課題の処理速度のトレーニングのためには、特化した空間認知課題も必要であると結論された。以上のように、知能の基礎力を計測し、さらに個々人の能力を分析した上で向上させるためのトレーニング方法の開発は端緒についたばかりではあるが、児童が意欲的に取り組む教材であることも含めて、その価値は高いことが示唆される結果を得た。
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