今年度は、基礎研究の一環として、ロボットを介在した活動および動物を介在とした活動と芸術活動の構造の相違を考察した。ロボット・動物を介在した活動は、人間が本来有する感情を誘発し、精神的に癒されることを目的としたものであるが、芸術療法は、言葉、絵画、音楽、ダンスなどの芸術的経験において、他者と共に作品を再統合・再構成する営みである。芸術的経験で再統合・再構成されるのは、自己でもあり他者との関係性でもある。いうまでもなく、こういった場で重要なのは、間合い感覚と身体感覚である。一方、動物との直接的対話を繰り広げる活動においても介在者と動物が一体となって"抱える場"を創出する場合には、実践者の身体感覚、間合い感覚が重要となる。日本感性工学会感性哲学部会では、この空間("抱える場")が、感性情報処理の基盤ともいうべき"音楽的対話"の構造と類似することを報告した。 また、平成21年度に引き続き、幼稚園における飼育動物とのかかわりにおける歌の創作(幼児教育との協働)、理科実験活動と音楽(理科・技術との協働)、校歌の制作過程における聞き取り(国語・美術との協働)など、音楽表現と言語活動を連関させるフィールドを拡大・深化し、"音楽的経験"の活動可能範囲を確認した。また、様々なライフステージにおける感性の様相の変容を抽出することを試みた。特に、感性の表現のプロセスを可視化することにより(都甲2004を改変)、「履歴を持った身体が外界を捉える力(感性)」の対象を"音響としての音楽""知覚の対象としての音楽""構造をもつものとしての音楽""意味および内容をもつものとしての音楽"の段階を再確認した。特に、"構造をもつものとしての音楽"について、数学的パラダイムによる解釈論の可能性という新たなテーマを提出した。
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