1)「市民性教育」に求められている課題の明確化 グローバリゼーションという背景の中で、「市民性教育」が求められるようになった事情を検討し、様々な立場から「市民性教育」に求められている要求を析出し、整理した。この整理に基づいて、日本において必要な「市民性教育」の立脚点を「再帰性」の育成として明確化し、その方法として「信頼」に基づいた「移行」の経験を教育に取り入れていく必要があることが明らかになった。 2)「市民性教育」としての「子どものための哲学」の役割の検討 教育やカウンセリングの領域で行われている哲学的諸実践を調査し、それらと「子どものための哲学」との類似点と差異とを検討した。その結果、哲学的諸実践においても、リップマンによる「子どものための哲学」においても、上記のような観点は含まれていないわけではないが、必ずしも主題化されていないことが明らかになった。したがって、上記のような観点に関わる部分を析出するとともに、それを主題化していくことが必要となり、それが「市民性教育」としての「子どものための哲学」のアウトラインとなる。 3)予備的調査としての授業実践の成果 本格的な実践・調査に向けての予備的調査として、中学校において「子どものための哲学」の授業を実践した。生徒にとって「再帰性」に注目するような授業は新しい経験であり、新鮮な興味と抵抗という両義的な反応を引き起こしたが、このような反応こそが「再帰性」の意識化という目的のための有効な基礎となるものであることが明らかになった。
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