1)「市民性教育」としての「子どものための哲学」の基本理念の析出 グローバル化する社会においては「再帰性」に対応することが重要になる。哲学の歴史から、既知の概念を未知の対象に適用することによって新たな着想を切り開く「移行」という方法を析出した。この方法は、知識、自己、社会の再帰化を考える際にも有効であると考えられる。特に、学校教育において支配的な政治の概念は、近代において形成されたものであり、現代においては硬直化しているのに対して、「移行」という概念は、自己と共同体の関係性を重視する「新しい政治」のあり方に対応している。 2)「子どものための哲学」のカリキュラムの方向性の明確化 「子どものための哲学」のカリキュラムを作成するにあたって、個々のトピックを位置づける際の基本性について検討した。知識、自己、社会といった諸概念が別々のものとしてではなく、相互に関連しあったものとして現れていることが現代社会の特徴であり、それを経験できるようにすることが重要となる。その際、個々のトピックについて学びつつも、同時に、それらを考える際の共通の方法を意識化させることが不可欠である。 3)授業実践による成果と課題の収集 以上の理論的考察に依拠して、自由とは何か、自己と共同体との関係はいかなるものかといった、カリキュラムの中心となるトピックについて授業案を作成し、中学校において「子どものための哲学」として実践を行った。それを通して、「市民性教育」を「子どものための哲学」を学校教育に導入することの意義と課題を考えるためのデータを収集した。
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