本年度の課題は、「子どものための哲学」を「市民性教育」として導入するたるに、昨年度までの研究において示された概念枠組みを具体的なカリキュラムとして展開することである。まず、「市民性教育」がこれまでどのような「理念」のもと実施され、どのような問題を抱えてきたのかを分析した。このような問題に対しては、欧米を中心として新しい模索が行われているとともに、日本においてもその潮流を受けた試みが行われている。そこで、日本の初等・中等教育において「子どものための哲学」を「市民性教育」として導入するために、これらの活動の問題意識と今なお抱えている課題の分析を行い、以下の諸点を明らかにした。1.社会科にみられる(特に、私と公の対比といった)近代的な記述枠組みに限界があるため、「新しい市民性教育」が依拠する概念枠組みを再構築する必要がある。2.社会科や道徳、特別活動などで、普遍的な認識を自分の生活につなげていく試みは行われてはきたが、その方法論は意識的なものとはいえなかった。「新しい市民性教育」が依拠すべき方法論を明確化する必要がある。3.教室での議論を社会での具体的な実践へとつなげていく仕組みの整備が必要である。最後に、以上の考察において示された概念枠組みと方法論に基づいて、日本の初等・中等教育において、「子どものための哲学」を「市民性教育」として導入する際の具体的なカリキュラムを開発し、総合的な学習の時間などで利用可能な授業案を作成した。
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