本研究の目的は、19-20世紀転換期の国際環境をふまえつつ、日本の鉄道企業の資材調達のあり方を検討し、近代日本における鉄道業発展の国際的契機を考えることにある。本研究の最終年度である当年度は、(1)イギリス製機関車の退潮に対する同国外務省(とくに日本領事館)の対応についての追加調査と、(2)ドイツ、アメリカといった新興国における機関車メーカーに関する史料調査を実施し、あわせてフランスの機関車輸出の動向をサーヴェイした。 このうち(1)については、イギリスの日本領事館が本国に送った詳細な調査報告書を分析し、鉄道資材の日本市場における英米の角逐の模様を明らかにした。その結果、鉄道資材調達におけるお雇い外国人技師の重要性があらためて浮き彫りになるとともに、彼等が帰国後も顧問技師やinspectorとして日本の鉄道の資材調達に深く関わっていたことが明らかになった。この点は、アメリカ国立公文書館が所蔵する日系企業接収文書に含まれる日本商社(大倉組)の史料でも裏付けることができ、鉄道資材調達のメカニズムを考える上で重要な論点となり得る。また(2)に関しては、ドイツのクラウス=マッファイ社のorder bookを収集し、クラウス社の機関車対日輸出の状況を把握するとともに、アメリカのボルドウィン社、アメリカン・ロコモーティブ社のorder bookおよびregister bookを一部、収集した。米独メーカーについては、いずれも予備調査の段階であり、本格的な分析には至っていない。しかし今後、すでに分析を終えているイギリス・メーカーの事例と比較検討することで、世紀転換期における機関車国際取引の実態が多角的に明らかになると思われる。またフランスについては、社会科学高等研究院(EHESS)および鉄道史協会 (AHICF)で情報収集と資料調査を行ったものの、機関車メーカーの対日輸出に関する資料を見いだすことはできなかった。
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